不動産登記と裁判所書記官作成の印鑑証明書

皆さん、こんにちは、名古屋市南区の司法書士の加藤芳樹です。

不動産登記手続において書面による申請書または委任状に押印した印鑑について印鑑証明書を添付しなければならない場合には、申請人又は委任者が個人の場合は市区町村長作成の印鑑証明書を、法人の場合は、登記官作成の印鑑証明書(注)を添付することが原則となっています(不動産登記令16条2項,18条2項)。

またその印鑑証明書は登記申請時において作成後3月以内のものである必要があります(不動産登記令16条3項,18条3項)。

上記の例外として裁判所書記官が作成した印鑑証明書を添付できる場合があり(不動産登記規則48条3号,49条2項3号)、実務上よく使われますので、本稿において纏めておくことにします。参考になれば幸いです。

(注)法人の印鑑証明書は会社法人等番号を提供することで添付を省略できます。詳しくは、ブログ記事をご覧下さい。

破産管財人の印鑑証明書

裁判所書記官が作成した印鑑証明書を添付できる根拠条文は次のとおりです。

不動産登記規則48条3号

裁判所によって選任された者がその職務上行う申請の申請書に押印した印鑑に関する証明書であって、裁判所書記官が最高裁判所規則で定めるところにより作成したものが添付されている場合

不動産登記規則49条2項3号

裁判所によって選任された者がその職務上行う申請の委任状に押印した印鑑に関する証明書であって、裁判所書記官が最高裁判所規則で定めるところにより作成したものが添付されている場合

要件は① 裁判所によって選任された者であることと、②その者が職務上行う登記申請に係る登記申請書または委任状に押印した印鑑に関する証明書で裁判所書記官が最高裁判所規則で定めるところにより作成したものであることの2点です。

破産管財人は、裁判所により選任され(破産法31条1項)、裁判所書記官は、最高裁判所規則である破産規則23条4項により破産管財人がその職務上行う「権利に関する登記を申請するために登記所に提出する印鑑の証明を請求したときは」その証明書を作成することとされているので②の要件も満たします。

よって、破産管財人の職務に関する登記申請においては、市区町村長発行の印鑑証明書の他に裁判所書記官作成の印鑑証明書を添付することができます。

不在者財産管理人、相続財産管理人、成年後見人の印鑑証明書

不在者の財産管理人には不在者本人が置いた管理人と裁判所から選任される管理人がいます(民法25条)。前者の管理人は①の要件を満たさないので、その職務上行う不動産登記申請においては、市区町村長作成の印鑑証明書を添付することになります。後者の不在者財産管理人は①の要件を満たします。

成年後見人と相続財産管理人も家庭裁判所により選任されるため(民法843条1項,952条1項)①の要件を満たします。

裁判所選任の不在者財産管理人、成年後見人、相続財産管理人がその職務を行うのに使用する印鑑を届け出た場合に、その届出が家事事件の記録の一部とされたときは裁判所書記官が当該印鑑の証明書を作成することがあります(家事事件手続法47条6項)。

しかし、これらの者の印鑑証明書を裁判所書記官が作成するとする最高裁判所規則はなく、家事事件手続法により作成されることがあるだけで②の要件は満たしません。

すると形式上これらの者がその職務上行う不動産登記の申請については裁判所書記官発行の印鑑証明書は使えないことになりそうです。

しかし、不動産登記規則48条3号、同49条2項3号が市区町村長発行の印鑑証明書添付の例外として最高裁判所規則により裁判所書記官が作成した印鑑証明書の添付で認めるとしている趣旨は、申請書または委任状に押された印鑑の真正が裁判所書記官が作成した印鑑証明書で十分に担保されていると考えられていることによります(「カウンター相談」『登記研究709』202頁(テイハン,平成19年)。

最高裁判所規則により作成された印鑑証明書ではありませんが、裁判所に選任された不在者財産管理人、成年後見人、相続財産管理人がその職務上行う不動産登記の申請書または委任状に押印した印鑑につき家事事件手続法に基づき裁判所書記官が作成した印鑑証明書でもその印鑑の真正は十分に担保されているといえ、この印鑑証明書も使用可能と解されています(前掲「カウンター相談」202頁,「質疑応答」『登記研究815』171頁(テイハン,平成28年)。

名古屋法務局管内の法務局へ、相続財産管理人に関する裁判所書記官作成の印鑑証明書を添付して登記申請を何度かしたことがありますが、いずれも問題なく処理されています。

裁判所書記官作成の印鑑証明書と使用期限

不動産登記申請書または委任状に押印した印鑑に係る市区町村長または登記官作成の印鑑証明書は、前述のとおり登記申請時において作成後3月以内のものである必要があります(不動産登記令16条3項,18条3項)。

では、裁判所書記官作成の印鑑証明書には使用期限はあるのでしょうか。

市区町村長または登記官作成の印鑑証明書の使用期限は不動産登記令16条3項または同18条3項により規定されていますが、裁判所書記官作成の印鑑証明書の添付根拠は不動産登記規則48条3号または同49条2項3号です。

当該規則には期限に関する規定はないことから裁判所書記官作成の印鑑証明書は作成後3月以内のものでなくても使用可能です。

不動産登記令16条3項または同18条3項が作成後3月以内の印鑑証明書でなければならないとしている趣旨は、印鑑証明書を添付させるのは申請書または委任状に押印された印鑑が申請人本人のものであることを確認し、もって申請意思を確認することにあるところ、印鑑証明書作成後相当期間が経過している場合には改印されている可能性もあり、申請人本人の印鑑であることを十分に担保することができなくなることから期限を定めているものです(前掲「カウンター相談」203頁)。

破産管財人等が不動産登記の申請書または委任状に押印した印鑑につき当該破産管財人等本人の印鑑であることを裁判所書記官の作成に係る印鑑証明書で確認し、もって申請意思を確認する必要があることは、市区町村長作成の印鑑証明書を添付する場合と同様です。

しかし、破産管財人等が登記申請をする際には、選任審判書等の代理人の権限を証する書面が登記申請書に添付される(不動産登記令7条2項)ことから申請人が破産管財人等であることは当該書面で確認できるので、裁判所書記官作成の印鑑証明書の作成期限を3月以内とする必要はないと解されています(前掲「カウンター相談」203頁)。

なお、選任審判書等の公務員が職務上作成した代理人の権限を証する書面は、作成後3月以内のものを添付しなければなりません(不動産登記令17条1項)。

参考文献

「カウンター相談」『登記研究709』199頁~203頁(テイハン,平成19年)
「質疑応答7974」『登記研究815』171頁・172頁(テイハン,平成28年)

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