NPO法人の役員変更登記を設立以来忘れていた場合の登記手続

皆さま、こんにちは、名古屋市南区の司法書士・行政書士の加藤芳樹です。

さて、法人の登記と言えば株式会社からの依頼が一番多いのですが、NPO法人からご依頼を受けることもあります。この場合、設立した後に登記を一度もしていない法人からのご依頼もございます。

NPO法人の役員の任期は、原則として「2年以内において定款で定める期間」(特定非営利活動法人法(以下「法」という)24条1項)とされており、定款で役員を社員総会で選任することとしているNPO法人については、例外的に、定款により後任の役員が選任されていない場合に限り、定款で定められた任期の末日後、最初の社員総会が終結するまで伸長することができるだけです(法24条2項)。

株式譲渡制限規定のある株式会社のように、役員の任期を10年ほどまでに伸長できるわけではありません。

なお、以前は資産の総額も変更が生じたときは登記が必要とされていましたが、平成30年10月1日に組合等登記令の一部を改正する政令が施行されたことにより、同日以後は登記事項では無くなりましたので、例えそれ以前に登記を怠っていたとしても登記をすることはできません。

NPO法人の理事の変更登記

設例

平成21年9月1日に設立され下記のとおり、役員が設立時に登記されたままとなっているNPO法人から、令和5年9月9日に、理事の変更登記を依頼された場合の登記手続について考えてみます。

愛知県大府市〇〇町30番地
理事甲

名古屋市南区〇〇一丁目200番地
理事乙

愛知県東海市〇〇町10番地
理事丙

まず、NPO法人の代表者の方などから役員の変遷を聞き取りし、さらに、NPO法人の定款、登記事項証明書(登記情報)、事業報告書、役員名簿、役員等変更届出書、社員名簿などを可能な限り入手し、総会の開催日、役員の変遷など議事録等の作成や登記に必要な情報を確認をします。

定款及び事業報告書は、内閣府のNPO法人ポータルサイト(https://www.npo-homepage.go.jp/npoportal/index)から該当法人を検索してダウンロードをすることができ、事業報告書のファイルに役員名簿や社員名簿が含まれている場合もあります。

定款の代表権に関する規定、任期に関する規定を確認する

(種別及び定数)
第13条 この法人に次の役員を置く。
 (1) 理事 3人以上
 (2) 監事 1人
2 理事のうち、1人を理事長とする。

(選任等)
第14条 理事及び監事は、総会において選任する。
2 理事長は理事の互選とする。

(注)特定非営利活動法人法では、役員の選任方法は決められておらず、定款で総会において選任すると定めている法人が殆どです。

(職務)
第15条 理事長は、この法人を代表し、その業務を総理する。

(注)理事は原則各自代表ですが、定款をもって代表権を制限することができます(法15条)。設例の規定の場合は、理事長に選任された理事以外は代表権を有しないことになります。

(任期等)
第16条 役員の任期は2年とする。ただし、再任を妨げない。
2 補欠のため、又は増員によって就任した役員の任期は、それぞれの前任者又は現任者の任期の残存期間とする。
3 役員は前2項の規定にかかわらず、後任者が選任されていない限り、任期の末日後、最初の社員総会が終結するまで、その任期を伸長する。

(注)役員の任期は、2年以内で定款で定めた期間です(法24条1項)。3項は、定款で役員を社員総会で選任することとしている場合に定めることができる規定です(法24条2項)。

附則
1 この定款は、この法人の設立の日から施行する。 
2 この法人の設立当初の役員は、次に掲げる者とする。
理事長 甲
理事  乙
同   丙
監事  丁

3 この法人の設立当初の役員は、第16条第1項の規定にかかわらず、成立の日から平成23年6月30日までとする。

(注)3項の設立当初の役員の任期の定めは、法人成立の日から2年を超えてはならず、法人運営に支障を来たさないように、事業年度の末日後2から3か月後に設定されることが多いです。

登記事項

平成24年4月1日の改正法施行日前後で登記事項に変更があるので要注意

平成24年4月1日施行の特定非営利活動促進法の一部を改正する法律(平成23年法律第70号,以下「改正法」という。)施行の前後で、登記事項に変更があるので注意が必要です。

改正前の法第16条は下記のとおりでしたが、改正法により2項が削除され、さらに、特定非営利活動促進法施行令(平成23年政令第319号,以下「施行令」という。)附則第2条により、組合等登記令の一部が改正され、NPO法人の登記事項として「代表権の範囲又は制限に関する定めがあるときは、その定め」(組合等登記令第2条第2項第6号,別表)が追加されました。

第16条 理事は、すべて特定非営利活動法人の業務について、特定非営利活動法人を代表する。
2 理事の代表権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。(改正法により2項削除)

改正法施行前は、法第16条第2項で「理事の代表権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない」と規定されていたため、定款により代表権を制限された理事であったとしても、当該理事を含め理事全員を代表権を有する者として、その者の氏名、住所及び資格(組合等登記令第2条第2項第4号)を登記しなければならないとされていました(平成10年8月31日付け法務省民四第1605号民事局長通達参照)。

改正法施行後は、定款をもって代表権の全部が制限された理事は、代表権を有する理事に該当しないため登記は不要となりました。定款をもって代表権の一部が制限された理事及び代表権の制限がされていない理事は、代表権を有するものとして、その者の氏名、住所及び資格(組合等登記令第2条第2項第4号,理事長等と定款で役職名を定めていても法律上の資格である「理事」として登記をします。)を登記し、さらに、定款をもって代表権の一部が制限された理事については、「代表権の範囲又は制限に関する定めがあるときは、その定め」(組合等登記令第2条第2項第6号,別表)を登記することになります。

本設例の定款第15条は、定款による代表権の制限の具体例となります。設例の事例ですと、理事長以外の理事は、定款をもって代表権の全部が制限された理事ということになります。

定款に代表権の制限のあるNPO法人については、改正法の施行日(平成24年4月1日)から6か月以内(平成24年10月1日,ただし、その日より前に他の登記をするときは、当該他の登記と同時)に、代表権を有する理事以外の代表権を有しない理事について「平成24年4月1日代表権喪失」の登記を、理事の代表権の範囲又は制限に関する定款の定めがある場合には、当該理事について代表権の範囲又は制限に関する定めの登記をしなければならないとされています(施行令附則第3条)。

しかし、本設例にように登記をしていないNPO法人もあります。

本設例の登記事項及び添付書類

登記事項

本設例のNPO法人について、代表者の聞き取りやその他資料から、設立後依頼日に至るまで、同じ役員が同じ役職に重任をしていたとします。

設立時の理事のうち、定款附則2項及び定款第15条により理事長である甲以外の理事は代表権を有しない理事であることが分かります。設立当初の役員は、定款附則3項により改正法の施行前に重任(平成23年7月1日)しているため、平成23年7月1日を原因日とする全理事の重任登記が必要となります。なお、監事はNPO法人においては登記事項ではありません(組合等登記令第2条第2項参照)。

その後、改正法により代表権を有しない理事である乙及び丙について、平24年4月1日代表権喪失の登記が必要となります。

その後、代表権を有する理事である甲については、定款第16条1項により2年おきの重任登記が必要となります。

以上の登記事項は次のとおりとなります。

「役員に関する事項」
「資格」理事
「住所」愛知県大府市〇〇町30番地
「氏名」甲
「原因年月日」平成23年7月1日重任
「役員に関する事項」
「資格」理事
「住所」名古屋市南区〇〇一丁目200番地
「氏名」乙
「原因年月日」平成23年7月1日重任
「役員に関する事項」
「資格」理事
「住所」愛知県東海市〇〇町10番地
「氏名」丙
「原因年月日」平成23年7月1日重任
「役員に関する事項」
「資格」理事
「住所」名古屋市南区〇〇一丁目200番地
「氏名」乙
「原因年月日」平成24年4月1日代表権喪失
「役員に関する事項」
「資格」理事
「住所」愛知県東海市〇〇町10番地
「氏名」丙
「原因年月日」平成24年4月1日代表権喪失
「役員に関する事項」
「資格」理事
「住所」愛知県大府市〇〇町30番地
「氏名」甲
「原因年月日」平成25年7月1日重任
「役員に関する事項」
「資格」理事
「住所」愛知県大府市〇〇町30番地
「氏名」甲
「原因年月日」平成27年7月1日重任
「役員に関する事項」
「資格」理事
「住所」愛知県大府市〇〇町30番地
「氏名」甲
「原因年月日」平成29年7月1日重任
「役員に関する事項」
「資格」理事
「住所」愛知県大府市〇〇町30番地
「氏名」甲
「原因年月日」令和1年7月1日重任
「役員に関する事項」
「資格」理事
「住所」愛知県大府市〇〇町30番地
「氏名」甲
「原因年月日」令和3年7月1日重任
「役員に関する事項」
「資格」理事
「住所」愛知県大府市〇〇町30番地
「氏名」甲
「原因年月日」令和5年7月1日重任

添付書類

本設例における添付書類は下記のとおりです。

  • 定款
  • 社員総会議事録
  • 理事の互選書
  • 互選書に押印した理事の市町村長の作成に係る印鑑証明書(注1)
  • 代表権を有する理事の就任の承諾を証する書面(代表権を有しない理事の就任の承諾を証する書面は、添付書類になりません。社員総会議事録または互選書に、被選任者がその場で就任承諾した旨の記載があれば議事録の記載を援用できます。)(注2)
  • 委任状(司法書士に登記手続きを委任する場合)

(注1)
NPO法人は、組合等登記令が適用される法人であり(組合等登記令第1条,別表)、各種法人等登記規則が適用されます(各種法人等登記規則第1条)。

各種法人等登記規則第5条により商業登記規則第61条第6項を準用しているため、互選書に理事が押印した印鑑につき、市町村長の作成に係る印鑑証明書を添付することが原則となりますが、互選書に変更前の代表権を有する理事(設例の場合甲)が法務局に提出している印鑑を押印している場合には、印鑑証明書の添付は不要となります。

(注2)
就任を承諾したことを証する書面へ押印した印鑑についての印鑑証明書の添付が不要なのは、各種法人等登記規則第5条により商業登記規則第61条第4項が準用されていないためであり、再任だからではありません。

参考文献 
法務省民商第298号平成24年2月3日「特定非営利活動促進法の一部を改正する法律の施行に伴う法人登記事務の取扱いについて(依命通知)」(https://www.moj.go.jp/content/000101917.pdf

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