合併や分割の登記 認可がないと無効になる場合があり要注意

皆さん、こんにちは、名古屋市南区の司法書士・行政書士の加藤芳樹です。

法人の合併や分割には、主務官庁の認可がそれらの効力要件になっている場合があります。この場合、単に事業の許認可が引き継げないのではなく、合併や分割の手続きそのものが無効となりますので、これを見落とすと大変です。計画段階で、認可が合併等の効力要件になっていないかを必ず確認しないといけません。

今回は、合併登記の仕事を受託した司法書士の視点から、吸収合併登記手続の注意点として、主務官庁の認可が合併の効力要件となっている場合にスポットライトを当てて、解説します。よろしくお願いします。

1.吸収合併登記 認可がないと合併の効力が生じない場合

吸収合併をするに当たり主務官庁の認可がいるのか否かの確認は、依頼者である消滅会社からの許認可事業を行っているかどうかの聞き取りと、吸収合併消滅会社の登記事項証明書(登記簿謄本)の事業目的をチェックすることから始めます。

事業目的の中の事業に許認可事業があるのであれば、その根拠法を調べます。例えば、港湾運送事業(一般港湾運送事業,港湾荷役事業など)が目的として登記されていれば、港湾運送事業法を確認するといった具合です。

運輸局管轄の事業には、認可が合併の効力要件となっているケースが多いので特に注意が必要です。

例えば次の事業を行う法人の合併や分割は、事前に国土交通大臣の認可を得る必要があります。

1.港湾運送事業(港湾運送事業法18条2項)
港湾運送事業の種類には、一般港湾運送事業、港湾荷役事業、はしけ運送事業、いかだ運送事業、検数事業、鑑定事業、検量事業があります(同法3条)。
2.一般旅客定期航路事業(海上運送法18条2項)
3.一般旅客自動車運送事業(道路運送法36条2項)
一般旅客自動車運送事業の種類には、一般乗合旅客自動車運送事業、一般貸切旅客自動車運送事業、一般乗用旅客自動車運送事業があります(同法3条1号)。
4.一般貨物自動車運送事業(貨物自動車運送事業法30条2項)
5.第二種貨物利用運送事業(貨物利用運送事業法29条2項)

主務官庁の認可が合併の効力要件となっている場合には、認可が出されるまでの期間を考えて、余裕をもって吸収合併手続のスケジュールを組む必要があります。なお、認可書は、吸収合併登記申請書の添付書面となります(商業登記法19条)。

2.目的上事業者の場合には、合併の認可を要しない旨の証明書が必要

では、消滅会社が、主務官庁の認可が合併の効力要件である事業目的を登記しているが、実際にはその営業の許可を受けておらず、事業を行っていない法人(以下「目的上事業者」松井信憲『商業登記ハンドブック第3版』(商事法務,179頁)であったらどうでしょうか。

消滅会社が、事業目的として「一般乗用旅客自動車運送事業」を登記しているが、目的上事業者であったケースを考えてみましょう。

この場合には、存続会社が一般旅客自動車運送事業者でなければ当然に、一般旅客自動車運送事業者であったとしても、道路運送法36条2項ただし書きにより、吸収合併をするにあたり認可は不要です。

道路運送法第36条2項
一般旅客自動車運送事業者たる法人の合併及び分割は、国土交通大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。ただし、一般旅客自動車運送事業者たる法人と一般旅客自動車運送事業を経営しない法人が合併する場合において一般旅客自動車運送事業者たる法人が存続するとき又は一般旅客自動車運送事業者たる法人が分割をする場合において一般旅客自動車運送事業を承継させないときは、この限りでない。

認可は不要ですが、消滅会社の事業目的に「一般乗用旅客自動車運送事業」と登記されている以上、登記官には、消滅会社が目的上事業者であるのか、法律上の事業者であるのか区別が付きませんので、消滅会社の事業目的から「一般乗用旅客自動車運送事業」を抹消する登記申請をするか、添付書類として、「合併の認可を要しない旨の証明書」を添付して合併登記を申請しないと登記は受理されません(平成15年8月18日付け法務省民商第2291号民事行政部長、地方法務局長あて民事局商事課長通知参照,『登記研究670』(テイハン,195頁)。

前者では、余分に登録免許税がかかりますので、後者の方が得策です。名古屋市に本店がある会社の「合併の認可を要しない旨の証明書」の発行は、中部運輸局 愛知運輸支局 輸送・監査担当が窓口となっています。

担当窓口へ、「合併の認可を要しない旨の証明書請求書」に、合併法人及び被合併法人の履歴事項全部証明書の写しと合併契約書の写し(いずれも原本証明不要)を添付して、返信用封筒を同封して請求したことがありますが、10日で発行され返送していただけました。

当該書面の発行部署は、中部運輸局自動車交通部 旅客第二課ですので、お急ぎの場合には直接当該部署に郵送請求しても良いと思われますが、事前に確認した上で進めていただきます様お願いします。

随分前に、港湾運送事業が登記された目的上事業者の吸収合併登記手続において、港湾運送事業法18条2項の「合併の認可を要しない旨の証明書」を、中部運輸局に発行してもらったことがありますが、その証明書には証明者の捺印がありました。今回発行された証明書には、押印が一切なく時代の流れを感じました。

なお、登記されている事業目的は、かならずしも法律上定義されている事業目的名とは限りません。例えば介護タクシー事業を行うには、一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の許可が必要となりますが、「介護タクシー事業」などと、登記されていることも多いです。

目的上事業者で、登記されている目的が、「合併の認可を要しない旨の証明書」の添付が必要な目的であるか疑義があるときは、事前に法務局に確認した方が無難でしょう。

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