商業・法人登記 添付書面への押印の要否
皆さん、こんにちは、名古屋市南区の司法書士・行政書士の加藤芳樹です。
世の流れは脱ハンコとなっており、商業・法人登記の世界も例外ではありません。
商業・法人登記の添付書面への押印についても見直しがされており、法令の規定により押印又は印鑑証明書の添付を求められていない書面への押印は不要(法務局で審査されない)となっています(令和3年1月29日付け法務省民商第10号民事局長通達)。
なお、書面を電磁的記録(電子データ,商業登記法19条の2)で作成した場合は、電子署名をして電子証明書を記録する必要があります(商業登記規則36条3項・4項)。
本稿においては、書面で作成する添付書面の押印に的を絞り解説します。
目次
1.商業登記 添付書面への押印が不要とされたもの
設立登記申請時に添付する定款(原始定款)以外の定款(商業登記規則61条1項など)
株主リスト(商業登記規則61条2項及び3項)
資本金の額の計上に関する証明書(商業登記規則61条9項)
免許証の写しなどの本人確認証明書(商業登記規則61条7項)
払込を証する書面(商業登記法47条2項5号)
取締役会を置かない株式会社(有限会社を含む。以下同じ)の取締役及び取締役会設置会社の代表取締役又は代表執行役以外の者の就任承諾書
添付書類を原本還付を求める際に添付する原本のコピー(商業登記規則49条2項)
その他法令の規定により押印又は印鑑証明書の添付を求められていない書面については、押印は不要とされました。
商業登記規則61条は、株式会社の規定です(同規則61条9項は合同会社の登記につき準用されていますが押印を求める規定ではありません)。
持分会社(合名、合資、合同会社)の就任承諾書、総社員の同意書その他の持分会社の添付書面については、代理人に対する登記の委任状(商業登記規則32条の2)以外に法令上の押印根拠はありません。
なお、代表者などが証明をしていた書面について押印は不要となりましたが、証明者の記名は従来通り必要です。
また、法令上の根拠のない契印や訂正印も不要(審査されない)となっています。
契印に関する法令上の根拠の具体例は、申請書の契印(商業登記規則35条4項)、訂正印に関する法令上の根拠の具体例は、「申請書その他の登記に関する書面」の訂正印(商業登記規則48条3項)です。
2.添付書面への押印が必要とされるもの
原始定款(会社法26条1項)
取締役会議事録(会社法369条3項)
ある取締役の一致があったことを証する書面については、取締役会議事録に準ずるものとして署名又は押印が必要(前記通達)
取締役会を置かない株式会社の取締役の再任時を除く就任承諾書(商業登記規則61条4項)
取締役会設置会社の代表取締役の再任時を除く就任承諾書(商業登記規則61条5項)
代表取締役を選定した株主総会議事録(商業登記規則61条6項1号)
取締役の互選により代表取締役を選定した場合の互選書(商業登記規則61条6項2号)
法務局に印鑑届出をしている代表取締役などの代表者の辞任を証する書面(商業登記規則61条8項)
その他法令の規定により押印又は印鑑証明書の添付を要する書面については、従来通り押印が必要です。
辞任を証する書面については、改正により令和3年2月15日から法務局への印鑑の届出が任意となったことから(商業登記法20条1項の削除)、商業登記規則61条8項にも改正が入っています。
従来、法務局に印鑑届をしている代表者についてのみ、辞任を証する書面に法務局届出印を押印するか、実印を押印して印鑑証明書を添付しなければならないとされていましたが、法務局に印鑑を届出した代表者がいない株式会社については、株式会社の全ての代表者の辞任を証する書面について、個人の実印を押印して印鑑証明書を添付しなければならなくなりました(注)。
(代表)取締役の就任承諾書と辞任届への押印について、別の記事「(代表)取締役の就任承諾書と辞任届への押印について」でさらに詳しく解説してみました(令和4年(2022年)8月11日)。参考になれば幸いです。
(注)印鑑証明書の「添付が不可能又は著しく困難であるとして、例えば、代表取締役等の辞任届は受領したものの、上記証明書を受領する前に当該代表取締役が死亡した旨又は行方不明となった旨を記載した上申書とともに、当該代表取締役等の死亡診断書、戸籍事項証明書又は警察署が発行した失踪届受理証明書等を提出した場合には、上記市区町村長作成の証明書が申請書に添付されていないときでも、当該申請を受理して差し支えない」(「平成27年2月20日付け法務省民商第18号法務省民事局長通達」登記研究808号(テイハン,平成27年)115頁)とされています。(令和4年(2022年)8月12日追記)
3.各種法人等の添付書面と押印義務
会社(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社)以外の各種法人や投資事業有限責任組合、有限責任事業組合及び限定責任信託に係る登記手続についても、会社と同様に法令の規定により押印又は印鑑証明書の添付を求められていない書面への押印は不要となっています。
なお、一般社団法人及び一般財団法人については、商業登記規則61条1項及び4項から8項までを準用(一般社団法人等登記規則3条)し、医療法人やNPO法人などの組合等登記令が適用される法人については、商業登記規則61条1項、6項及び8項が準用(各種法人等登記規則5条)されています。
4.商業・法人登記 実務対応
商業・法人登記手続上、法令の規定により押印又は印鑑証明書の添付が求められていない書面については押印は不要(審査しない)とされましたが、不動産登記申請手続では利益相反取引の承認をした株主総会議事録には押印が必要とされるなど、議事録等の提出先によっては、押印が必要とされる場合があります。
法務局に代表者が印鑑届をしている株式会社については届出者以外の者、届出をしていない株式会社については代表者以外の者の辞任届は記名だけで良くなりましたが、後日の紛争防止の観点から署名又は記名押印、印鑑はできれば実印を押してもらうことが望ましいでしょう。
就任承諾書についても同様の事がいえます。その他各種議事録など、予防法務の観点から従来どおり署名又は記名押印をして、法人はこれらの書類を保管しておくのが良い様に思います。
改正により、法務局への法人代表者の印鑑届出は任意となっていますが、登記を書面で申請(司法書士へ書面による委任状を交付した上で行うオンライン申請を含む,以下同じ)する場合には、印鑑の届出が必要となります。
書面申請の場合は、司法書士に依頼する委任状か、法人が自ら申請する場合には、申請書に法務局届出印を押す必要があります(商業登記規則35条の2)。
司法書士としては、誤りのない登記のため、または予防法務の観点から、委任状の他、議事録等の添付書面についても、お手数をお掛けしますが、基本的には従来どおり押印をお願いすることになります。
ご理解の程よろしくお願いします。
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