相続登記に必要な戸籍謄本等の範囲

皆さん、こんにちは 名古屋市南区の司法書士加藤芳樹です。

さて、相続登記には数多くの戸籍(除籍・原戸籍)謄本を添付する必要があります。現行民法における法定相続または遺産分割協議書を添付する相続登記には、次の範囲の戸籍(除籍・原戸籍)謄本が必要となります。

なお、登記においては、戸籍の使用期限はありません。 また、除籍謄本等が保存期間の経過や火災等による滅失により交付を受けられない場合には、その旨の市町村長の証明書を添付します。 参考になれば幸いです。

相続人が第一順位(配偶者と子(胎児を含む))

※子は実子だけではなく養子も含みます。

(1)被相続人(亡くなった人)の出生から死亡までの間断のない一連の戸籍(除籍・原戸籍)謄本(注1)

(2)相続人の現在戸籍(謄本または抄本)(注2)

※同一の戸籍謄本は1通あれば足ります。例えば、相続人である妻の現在戸籍謄本に被相続人である夫の死亡の事実が記載されているのであれば、被相続人の死亡の事実を証する戸籍謄本として同一の戸籍謄本を余分に取得する必要はありません。

相続人が第二順位(配偶者と直系尊属(父母・祖父母など))

(1)被相続人の出生から死亡までの間断のない一連の戸籍(除籍・原戸籍)謄本(注1)

(2)祖父母(曾祖父母)が相続人である場合には、父母(祖父母)の死亡の記載のある戸籍(除籍・原戸籍)謄本(注3)

(3)相続人の現在戸籍(謄本または抄本)(注2)

※同一の戸籍謄本は1通あれば足ります。

相続人が第三順位(配偶者と兄弟姉妹)

(1)被相続人の出生から死亡までの間断のない一連の戸籍(除籍・原戸籍)謄本(注1)

(2)被相続人の父母の出生から死亡時までの間断のない一連の戸籍(除籍・原戸籍)謄本(注4)

(3)相続開始時に祖父母または曾祖父母が生存の可能性のある年齢である場合には、祖父母又は曾祖父母の死亡の記載のある戸籍(除籍・原戸籍)謄本(注5)

(4)相続人の現在戸籍(謄本又は抄本)(注2)

※同一の戸籍謄本は1通あれば足ります。

注釈

(注1)被相続人の出生から死亡時までの間断のない一連の戸籍謄本の添付が必要なのは、子や廃除(注6)の有無などを調査し相続人の範囲を確認するためです。出生まで遡らなくても被相続人の生殖能力獲得年齢以後の一連の戸籍謄本があれば足りるとするのが不動産登記実務上の扱いです。

子が相続開始以前に死亡、相続人の欠格事由(注7)に該当、若しくは廃除によって相続人の資格を喪失していたときは、その相続人の資格を喪失した者(子=被代襲者)の子(被相続人からみて孫(胎児を含む))が相続人となります(民法887条2項)。このことを代襲相続といいます。被代襲者の子(孫)も 相続開始以前に死亡、相続人の欠格事由(注2)に該当、若しくは廃除によって代襲相続人の資格を喪失していたときは さらにその子(胎児を含む)が代襲相続人となります(民法887条3項)。

第三順位である兄弟姉妹が相続人になるときには、代襲相続は、被代襲者である兄弟姉妹の子(被相続人から見て甥や姪(胎児を含む))までが代襲相続人となり、甥や姪が仮に被相続人よりも先に死亡していたとしてもさらにその子まで代襲相続人とはなりません(民法889条2項,887条3項は準用されていません)。

なお、なお、昭和23年1月1日から昭和53年12月31日までの間に相続が発生している場合は旧法が適用され、被代襲者である兄弟姉妹の子だけでなく、直系卑属は代襲相続人となります。

注意が必要なのは、代襲相続人になれるのは被相続人の直系卑属に限られることです(民法887条但し書)。具体的にいえば、被相続人の養子であった者が被相続人より先にお亡くなりになっていたとしても、養子縁組前の養子の子(養子及び実子)は被相続人の直系卑属ではないので代襲相続人とはなりません。

代襲相続が発生している場合や遺産分割協議成立前に相続人が死亡して数次相続が発生している場合には、被代襲者または死亡した相続人(中間の相続人)の出生(生殖能力獲得時)から死亡時までの間断のない一連の戸籍が必要となります。

代襲相続の場合は代襲相続人の範囲の確認のために、数次相続が発生している場合は、相続人が有していた遺産分割協議権を相続する相続人の範囲を確認するためです。

改製原戸籍とは

旧民法による戸主を中心とする家単位の戸籍(大正4年式戸籍)は昭和32年法務省令第27号により一つの夫婦と氏を同じくする子を基本とする様式に改製され、平成6年法務省令による改製では紙ベースによる戸籍が磁気ディスクに記録して調整する形式に改製(いわゆるコンピュータ改製)されています。

その他に明治31年式戸籍が大正3年の戸籍法改正による大正4年式戸籍への改製又は前述の昭和32年法務省令による改製がされるなどしています。

戸籍の様式が法改正により改められた場合には新様式により新たに戸籍が編製されます。この新様式により新たに編成された戸籍に対して、基となった従来の方式で作成された古い戸籍を改製原戸籍(「かいせいはらこせき」または「かいせいげんこせき」)と呼びます。省略して「はらこせき」と呼ぶこともあります。

出生から死亡時までの一連の戸籍が必要となる理由

戸籍は改製の他、 他の市町村への転籍、婚姻などにより新たに作成されますが 、この場合、古い戸籍に記載されていた情報がすべて新戸籍に記載されるわけではなく、養子縁組、婚姻、死亡などにより従来の戸籍から除籍された者の情報や離婚歴、 婚姻外の子を認知した事実や養子縁組をした事実 は記載されません。 (一方、養子や認知された子の戸籍に記載されたこれらの事項は、転籍などで新たに作成される養子や被認知者の戸籍にも移記されます。)

例えば、夫婦の間に子供がいたとしても、その子供が戸籍の改製前に結婚により除籍されていた場合には、改製後の戸籍にはその子供の情報は記載されませんし、改製前に認知した子がいたとしても、改製後の戸籍だけみてもその事実は明らかになりません。

そのため、被相続人の相続関係を調査するには、被相続人の死亡の事実の記載のある死亡当時の戸籍だけでは足りず、改製原戸籍や転籍などで戸籍が新たに作られた場合の元の戸籍である除籍謄本も必要になるのです。

(注2)相続人が被相続人死亡時(相続開始時)に生存(又は胎児であること)していることを確認するため相続人の現在戸籍は、被相続人の死亡以後に作成されたものが必要です。数次相続の場合は、遺産分割協議権を相続する第二次相続人の現在戸籍も必要となります。

なお、胎児は、相続については既に生まれたものとみなされ(886条1項)、「何某(母の氏名)胎児」で登記することができます(令和5年3月28日法務省民二第538号民事局長通達)。登記実務上は、胎児のために遺産分割その他の処分行為はできないとされています(昭和29年6月15日民事甲1188回答)ので、遺言書に基づく登記または、法定相続登記のみができますが、胎児の戸籍は、当然ありませんので不要です。懐胎証明書も不要とされています(登記研究191号72頁)。

胎児名義で登記をした後、死産の場合は、胎児は相続開始時から相続人にはならなかったものとされます(886条2項)ので、更正または抹消登記が必要となり、無事生まれてきた場合には、住所及び氏名の変更登記が必要となります。

(注3) 尊属とは親や祖父母など被相続人より上の世代の人です。親等が異なる直系尊属間では近い親等の人が先に相続人となります。

例えば被相続人の死亡時に母親と祖父が共に健在であった場合には、より親等の近い母親のみが相続人となり祖父は相続人とはなりません。直系尊属が相続人となる場合には代襲相続の規定は適用されず、死亡していた父親を祖父が代襲することはありません。

直系尊属には実親だけでなく普通養子縁組をしていた場合の養親も相続権を有します。特別養子縁組の場合には、養子と実親との親族関係が終了し(817条の2第1項)相続関係も発生しません。

(注4)兄弟姉妹を確認するために添付します。 出生まで遡らなくても被相続人の生殖能力獲得年齢以後の一連の戸籍謄本があれば足りるとするのが不動産登記実務上の扱いです。

(注5)父母または祖父母の戸籍(除籍・原戸籍)謄本の父欄母欄に「亡」の字が冠記してあれば戸籍上死亡が確認できます(『全訂 相続における戸籍の見方と登記手続』髙妻新,荒木文明著(日本加除出版,平成17年)216頁)。

(注6)被相続人に対して虐待や侮辱など著しい非行をした遺留分を有する推定相続人(相続が開始した際に相続人となるべき者のことをいい、被相続人の兄弟姉妹は遺留分を有しないので除かれます。)の相続権の廃除を家庭裁判所に請求することができます。請求権者は、被相続人(となる者)または、被相続人がその意思を遺言で表示したときの遺言執行者です。家庭裁判所の審判により廃除が認めらた後、請求者から審判書謄本(確定証明書付)を添付して役所に廃除届をすると廃除された旨が戸籍に記載されます。

なお、廃除は推定相続人の相続権という重大な権利を剥奪するものであるので慎重に扱われており簡単には認められていません。

(注7)欠格事由(民法891条)
「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」(民法891条1号)など民法891条に列挙されている一定事由に該当すると相続人となる資格が無くなります。

なお、この事実は戸籍には記載されません。相続欠格者がいる場合には、欠格事由が存する旨を記載した当該欠格者が作成した書面に当該欠格者の印鑑証明書を添付するか、確定判決の謄本を添付して登記申請をすることとなります(昭和33年1月10日民事甲四通達)。

参考文献

『全訂 相続における戸籍の見方と登記手続』髙妻新,荒木文明著(日本加除出版,平成17年)

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