みなし解散法人と抵当権抹消登記

令和5年4月1日施行の改正不動産登記法(以下「不登法」という。)により、一定の要件を満たす場合において、解散法人が担保権者である先取特権、質権又は抵当権(以下「抵当権等」)の抹消登記を、不動産所有者(登記権利者)が単独で申請できるようになっています。

一定の要件とは、不登法70条2項による調査を行っても解散法人の清算人の所在が判明せず、共同で抵当権等の登記の抹消申請ができない場合において、被担保債権の弁済期から30年が経過し、かつ、当該法人の解散日から30年が経過していることです(不登法70条の2)。

この場合の解散法人にはみなし解散法人(会社法472条第1項,旧商法406条ノ3第1項)も含まれます(『月報司法書士No624』(2024,2月)36頁)。

みなし解散となり職権で登記簿が閉鎖されている株式会社を抵当権者とする古い抵当権につき、不登法70条の2により抹消登記手続きを行ったので、備忘録として記録しておきます。

今回の事例は、管轄法務局に照会を掛け実施した事例であり、同様な事案でも同じように受理されるかどうかは不明です。自己責任で参考としていただけたら幸いです。

不登法70条の2による抵当権等の抹消登記の登記原因証明情報

不登法70条の2により登記権利者が単独で抵当権等を抹消する場合の登記原因証明情報は、次の3点セットとされています(「令和5年3月28日付け法務省民二第538号法務局長、地方法務局長宛て法務省民事局長通達」(以下「通達」という。))。

  1. 被担保債権の弁済期を証する情報として、金銭消費貸借契約証書、債権の弁済期の記載がある不動産の閉鎖登記簿謄本等
  2. 共同して登記の抹消を申請をすべき法人の解散の日を証する情報として、解散した法人の登記事項証明書等
  3. 不登法70条第2項に規定する方法により調査を行ってもなお、共同して登記の抹消すべき法人の清算人の所在が判明しないことを証する情報として、不登法70条第2項に規定する方法による調査(通達第2不登法関係2(2)エの二の方法による調査『登記研究903』142頁以下)の結果を記載した報告書(共同して登記の抹消の申請をすべき法人及びその清算人の調査の過程で収集した書類並びにこれらの者の所在調査に係る郵便記録等を添付したものをいう。以下「調査報告書」という。)

みなし解散と登記簿の閉鎖

株式会社に関する登記が最後にあった日から12年(一般社団法人及び一般財団法人は5年)経過し、法務大臣が、当該会社に2か月以内に本店所在地を管轄する登記所に事業を廃止していない旨の届出をすべき旨を官報に公告した場合において、その届出がなく、かつ、その期間内に当該会社に関する登記申請がなされないときは、その2か月の期間の満了時に解散したものとみなされます(会社法472条1項)。

このことをみなし解散といい、解散とみなされた日の翌日付で登記官により職権で解散の登記がされます。みなし解散がされた場合には、取締役及び代表取締役は退任(監査役は退任しません)し、職権でこれらの登記も抹消されます(線が引かれます)。

みなし解散がされた場合の清算人は、①定款で定める者、②株主総会の決議で選任された者、③①又は②により清算人になる者がいない場合は、みなし解散時の取締役全員が清算人(法定清算人)となります(会社法478条1項)。

清算人の登記は、みなし解散をした会社が申請するものですので、当該登記の申請がなければ誰が清算人であるか登記簿上判明しないことになります。

みなし解散の登記がされた後、10年を経過すると登記官は職権で登記簿(登記記録)を閉鎖することができます(商業登記規則81条1項1号)。なお、登記簿が閉鎖された後でも、清算を結了していない旨を管轄法務局に申し出ることで、登記簿を復活させることはできます(商業登記規則81条3項)。

みなし解散法人と不登法70条の2による抵当権抹消登記

登記原因証明情報として、不登法70条第2項に規定する方法により調査を行ってもなお、共同して登記の抹消すべき法人の清算人の所在が判明しないことを証する調査報告書を添付する必要があるとされているところ、みなし解散法人に清算人の登記がされていないときは、どのような調査報告書を添付すれば良いのか疑義があります。

そこで管轄法務局に「みなし解散した法人について清算人が選任されていない場合には、その事実をもって清算人の所在が判明しないものとし、みなし解散された会社の閉鎖登記簿謄本が清算人の所在が判明しないことを証する書面に該当すると考えますが、いかがでしょうか」と照会を掛けたところ意見のとおりとの回答を得ました。

そこで登記原因証明情報として、①被担保債権の弁済期から30年が経過していることを証する情報、②みなし解散日から30年が経過し、清算人の登記がされていない抵当権者の閉鎖登記簿謄本を添付して無事登記が完了しました。

登記申請書

登記の目的      抵当権抹消

原因        不動産登記法第70条の2の規定による抹消

抹消すべき登記   昭和53年〇〇月〇〇日受付
          第●●●●●号

権利者        名古屋市南区〇〇町〇〇番地
           (申請人)乙野太郎

義務者       名古屋市〇〇区〇〇四丁目〇番〇号○○○○ビル〇〇号
          ○○○○株式会社(注)

添付情報      登記原因証明情報(原本還付請求) 代理権限証書    

(注)不動産登記簿に記載されている抵当権者の表示どおりに記載します。

古い抵当権の抹消登記等はおまかせください

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投稿者プロフィール

加藤芳樹
加藤芳樹司法書士・行政書士
開業21年目となる名古屋市の司法書士・行政書士です。元設備保全マン、趣味は音楽、ギター、テニス、語らうことです。人には親切にをモットーとしており司法書士を天職だと思っています。自分の勉強を兼ねた業務上の情報を中心に執筆しています。

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