代表取締役等住所一部非表示措置が施行
皆さん、こんにちは 名古屋市南区の司法書士の加藤芳樹です。
本年(令和6年)10月1日から商業登記規則(以下「規則」という。)の改正により株式会社の代表取締役、代表執行役、代表清算人(以下「代表取締役等」という。)の住所について、登記事項証明書や登記情報(以下「登記事項証明書等」という。)について一部非表示とする措置が施行されました。
実務上重要ですので、令和6年7月26日付法務省民商第116号「商業登記規則等の一部を改正する省令の施行に伴う商業登記事務の取扱いについて(通達)」を基に備忘録として纏めておきます。参考になれば幸いです。
目次
1.代表取締役等住所非表示措置の概要
株式会社が設立登記、他管轄への本店移転登記における新所在地での登記、代表取締役等の就任(重任を含む)又は住所変更による登記申請と併せて、登記される住所につき代表取締役等住所非表示措置を講ずるように申し出ることにより、登記される住所について登記事項証明書等には行政区画(都道府県及び市区町村をいい、政令指定都市の区を含む)以外は表示させないようにする措置を講じてもらう制度です(規則31条の3第1項前段)。
対象となる法人は株式会社(特例有限会社を除く)に限られます。また、上記に掲げた登記の申請と併せて非表示措置の申し出をする必要があり、登記申請とは別に非表示措置の申出のみをすることは出来ません。
他管轄本店移転登記における新所在地での登記や、代表取締役の重任登記の際に既登記の代表取締役等の住所と変更がない場合でも非表示措置の申出は可能です。
代表取締役等住所非表示措置は、申出により登記事項証明書等に代表取締役等の住所の表示を行政区画までとするものであって、登記自体は住所全体がされているという点は注意すべきポイントです。したがって、行政区画内で住所移転をしたとしても住所変更の登記申請は通常どおり必要となります。また、上記の申出と併せて行う各登記においては、住所全体を登記申請する必要があります。
2.代表取締役等住所非表示措置の申出の方法
(1)申出の方法
代表取締役等住所非表示措置の申出は、株式会社が設立登記、他管轄への本店移転登記における新所在地での登記、代表取締役等の就任(重任を含む)又は住所変更による登記の申請書に、非表示措置を講ずる代表取締役等の氏名及び住所を記載します。
上場会社(金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社)で、既に代表取締役等住所非表示措置が講じられているものを除き、非表示措置の申出の際には、下記(2)の書類を添付する必要があります。
(2)添付書面
1)申出時に代表取締役等住所非表示措置が講じられていない非上場会社の場合
以下の(1)から(3)の書面の添付が必要です。
(1)株式会社の本店所在場所における実在性を証する書面(規則31条の3第1項第1号イ)
以下の①又は②の書面
①申出と併せて行う登記の資格者代理人が申出に係る株式会社が本店の所在場所に実在することを確認した書面(注)
(注)以下の例により資格者代理人において当該株式会社の本店所在場所における実在性を確認した日時及び具体的な方法等を記載し、当該資格者代理人の職印(当該資格者代理人が法人の場合は、当該法人が登記所に提出している印鑑)を押印した書面等が該当します。
本店の実在性を確認したことを証する書面
年 月 日
当職は、本件登記申請の代理人として、以下のとおり、申請に係る株式会社が登記上の本店所在場所に実在することを確認したことから、その旨を証明する。
〒 ー
住所
氏名又は名称 〔印〕
1 本店
2 商号
3 代表取締役等住所非表示措置の対象者
資格:
住所:
氏名:
4 本店実在性の確認の日時・方法
日時: 年 月 日
方法:□現認 □郵送 □その他( )
5 本店実在性の具体的確認方法
②当該株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便若しくはこれに準ずるものとして法務大臣の定めるものにより送付されたことを証する書面(注)
(注)配達証明書と併せて当該株式会社の商号及び本店所在場所が送付先として記載された郵便物受領証の添付を要し、当該配達証明書及び郵便物受領証に記載された当該株式会社の商号又は本店所在場所が登記記録と合致していることが必要です。
(2)代表取締役等の住所等を証する書面(規則31条の3第1項第1号ロ)
代表取締役等住所非表示措置の対象となる代表取締役等について、氏名及び住所が記載された市町村長その他の公務員が作成した証明書です。
当該証明書には、住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書、戸籍の附票の写し、当該代表取締役等の氏名及び住所が記載された日本国領事が作成した証明書、運転免許証や個人番号カード等の写しで代表取締役等が原本に相違ない旨を記載し記名したものなどが該当します。
上記書面が代表取締役等住所非表示措置の申出と併せて行う登記の申請書に添付されている場合には、当該申出のために改めての添付は要しません。このことを登記申請書の添付書面の援用といいます。
(3)株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面(規則31条の3第1項第1号ハ)
申出と併せて行う登記の資格者代理人が犯罪による収益の移転防止に関する法律6条の規定に基づき作成した確認記録の写し、本人特定事項について当該株式会社の代表取締役等の供述を記載した書面であって当該申出と併せて行う登記の申請の日の属する年度又はその前年度に公証人法58条の2第1項の認証を受けたもの、公証人法施行規則13条の4第1項の規定に基づき申告した本人特定事項について申告受理及び認証証明書(当該申出と併せて行う登記の申請が当該株式会社の設立の日の属する年度又はその翌年度に行われる場合に限る。)が該当します。
当該株式会社について、当該申出と併せて行う登記の申請の日の属する年度又はその前年度において、商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則7条に規定する実質的支配者情報一覧の写しの交付又は同告示第2条の申出がされており、かつ、その旨が当該登記の申請書に記載されている場合には、本人特定事項を証する書面の添付は要しません。
2)申出時に代表取締役等住所非表示措置が講じられている非上場会社の場合
既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている代表取締役等の住所変更の登記や、非表示措置の対象となる代表取締役等を追加する場合
上記(2)の代表取締役等の住所等を証する書面(規則31条の3第1項第1号ロ)のみの添付で足ります。
3)申出時に代表取締役等住所非表示措置が講じられていない上場会社の場合
申出をする株式会社について、金融商品取引所に当該株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面の添付を要します。
当該株式会社の上場に係る情報が掲載された金融商品取引所のホームページの写し等が該当します。なお、当該株式会社の代表取締役等による奥書等は不要です。
(3)登記申請書への記載例
(例)株式会社変更登記申請書
1.会社法人等番号 株式会社 1111-22-333333
(中略)
1.登記の事由 代表取締役の住所変更
1.登記すべき事項 別紙のとおり
1.登録免許税 金10,000円
上記のとおり、登記の申請をします。
下記の者につき、代表取締役等住所非表示措置を講ずるよう申し出ます。
なお、申し出るに当たって、
・株式会社が受取人として記載された配達証明書及び郵便物受領証
・住民票の写し
・実質的支配者の本人特定事項についての申告受理及び認証証明書
を添付します。
記
資格 代表取締役
住所 愛知県〇〇市〇町〇丁目〇〇番地
氏名 司法書一郎
※申請書の添付書面を援用する場合はその旨を記載します(例:印鑑証明書(登記申請書の添付書類を援用)を添付します。)。
実質的支配者情報一覧の保管及び交付の申出をしている場合はその旨及び申出先を記載します(例:実質的支配者情報一覧の保管及び交付について〇〇法務局〇〇支局に申出済みです。)
3.代表取締役等住所非表示措置の継続
代表取締役等住所非表示措置が講じられている株式会社が、他管轄へ本店移転した場合の新所在地における登記、重任又は再任の登記を申請した場合において、非表示措置が講じられている代表取締役等の住所に変更がない場合には、改めて当該代表取締役等につき非表示措置の申出をしなくても、非表示措置が講じられます(規則31条の3第3項)。
当該代表取締役等の住所に変更がある登記の申請をする場合には、改めて代表取締役等住所非表示措置の申出が必要となります。
4.代表取締役等住所非表示措置の終了
以下の場合に、現に効力を有する登記事項(清算結了又は規則81条1項若しくは117条3項の規定により登記記録が閉鎖されている場合においては、当該閉鎖時に現に効力を有していた登記事項)について、代表取締役等住所非表示措置が終了される(規則31条の3第4項柱書き)。
(1)代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出があったとき
代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出をする株式会社は、以下の申出書に非表示措置を希望しない代表取締役等の氏名及び住所を記載するとともに、申出書又は委任による代理人の権限を証する書面に登記所に提出している印鑑を押印して申出をします。
代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出書
申出年月日 | 令和6年11月23日 |
商号 | 株式会社〇〇〇 |
本店 | 愛知県〇〇市〇〇町〇〇番地 |
申出人の表示 | 住所 愛知県〇〇市〇〇三丁目15番地 資格 代表取締役 氏名 司 法 太 郎 印(注1) 連絡先 〇〇〇〇ー〇〇ー〇〇〇〇 |
代理人の表示 (注2) | 住所 名古屋市南区松城町一丁目30番地の1 長谷川ビル201号 氏名 司法書士 加 藤 芳 樹 連絡先 052-822-2773 |
代表取締役等住所 非表示措置を希望 しない代表取締役 等の氏名等 | 住所 愛知県〇〇市〇〇三丁目15番地 資格 代表取締役 氏名 司 法 太 郎 |
(申出会社の本店所在地を管轄する登記所) (地方)法務局 宛て |
(注1)代理人によって申出する場合以外は、代表取締役等が法務局に提出をしている印鑑で押印します。
(注2)代理人によって申出する場合は、代理権限証書に申出をする代表取締役等が法務局に提出している印鑑で押印します。
(2)その他
(1)登記官は、代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社について、その本店が登記上の所在場所において実在すると認められないときは、当該株式会社の登記記録が清算結了等により閉鎖されている場合を除き、代表取締役等住所非表示措置を終了させるものとされています(規則31条の3第4項第2号)。
(2)登記官は、上場会社として代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社が上場会社でなくなったと認めらるときは、代表取締役等住所非表示措置を終了させるものとされています(規則31条の3第4項第2号)。
「上場会社でなくなったと認められるとき」とは、株式譲渡制限の定款の定めの設定による変更の登記が申請されたとき等が該当します。この場合、他管轄への本店移転登記における新所在地での登記、代表取締役等の就任(重任を含む)又は住所変更による登記の申請がされ、これに併せて規則31条の3第1項第1号に規定する書面を添付した上で代表取締役等住所非表示措置の申出があったときは、非表示措置は終了されず、引き続き継続されます。
(3)登記官は、代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社の閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められるときは、代表取締役等住所非表示措置を終了させるものとされています(規則31条の3第4項第3号)。
「閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められるとき」とは、第三者から当該株式会社を所有権の登記名義人とする不動産の登記事項証明書等を添付した上で、当該株式会社の清算が未了である旨の情報提供が登記官に対してあった場合などが該当します。
5.代表取締役等住所非表示措置のメリット・デメリット
(1)メリット
個人情報が保護されます。但し、以前登記した住所は従来どおり表示されます。また、代表取締役等住所非表示措置が講じられていても、官公署(官公署から嘱託を受けた者を含む。)から請求等があった場合には、代表取締役等の住所に係る情報が提供される場合があります。
※登記事項証明書等記載例(住所変更を伴わない重任登記と同時の申出)
役員に関する事項 | 名古屋市南区松城町五丁目30番地の1 代表取締役 司法書太郎 | |
名古屋市南区 代表取締役 司法書太郎 | 令和6年11月1日重任 | |
令和6年11月4日登記 |
(2)デメリット
従来は、身分証明書(免許証等)に記載された住所と登記事項証明書等上の住所の記載の一致をもって、取引を行う者が登記されている代表取締役等と同一人物であるか否か確認できたものが、代表取締役等住所非表示措置が講じられているとその確認ができないため、取引の相手方などから会社の印鑑証明書の提出が求められるなど一定の手間が増えることや、金融機関から融資を受ける際に不都合が生じる可能性など一定の影響が出ることが考えられます。
6.注意点
- 対象となる法人は株式会社(特例有限会社を除く)に限られます。
- 株式会社が設立登記、他管轄への本店移転登記における新所在地での登記、代表取締役等の就任(重任を含む)又は住所変更による登記申請と併せて、登記される住所につき代表取締役等住所非表示措置を講ずるように申し出る必要があり、非表示措置の申出のみをすることはできません。
- 代表取締役等住所非表示措置は、申出により登記事項証明書等に代表取締役等の住所の表示を行政区画(都道府県及び市区町村をいい、政令指定都市の区を含む)までとするものであって、登記自体は住所全体がされていますので、行政区画内で住所が移転した場合でも住所変更の登記申請は通常どおり必要となります。
- 代表取締役等住所非表示措置を講じている株式会社の登記事項証明書等を取得しても、非表示措置が講じられている代表取締役等の住所は行政区画までしか表示されていませんが、登記申請書には、代表取締役等の住所を記載する必要があります。
司法書士が、代表取締役等住所非表示措置を講じている株式会社から登記申請の依頼を受けた際は、当該代表取締役等の住所を確認をして、必要があれば住所変更登記をする必要があります。 - 司法書士として、代表取締役等住所非表示措置が講じられている代表取締役等の本人確認は、身分証明書(免許証等)の他に会社の印鑑証明書を徴求するなどして慎重に行う必要があります。
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