取締役の再任と印鑑証明書の添付

皆さま、こんにちは 名古屋市南区の司法書士加藤芳樹です。

2022年8月11日のブログ記事「(代表)取締役の就任承諾書と辞任届への押印について」の注釈として、印鑑証明書の添付が不要となる商業登記規則61条4項・5項の「再任」の意義について触れましたが、若干加筆して独立の記事としました。参考になれば幸いです。

商業登記規則61条4項・5項の再任の意義・印鑑証明書の添付が不要となるケース

商業登記規則61条
4項 設立(合併及び組織変更による設立を除く。)の登記の申請書には、設立時取締役が就任を承諾したこと(成年後見人又は保佐人が本人に代わつて承諾する場合にあつては、当該成年後見人又は保佐人が本人に代わつて就任を承諾したこと。以下この項において同じ。)を証する書面に押印した印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付しなければならない。取締役の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書に添付すべき取締役が就任を承諾したことを証する書面に押印した印鑑についても、同様とする。

5項 取締役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「設立時取締役」とあるのは「設立時代表取締役又は設立時代表執行役」と、同項後段中「取締役」とあるのは「代表取締役又は代表執行役」とする。

上記規則のとおり、原則として取締役会を置かない株式会社の取締役の就任による変更登記の申請書には、就任する取締役が実印で捺印した就任を承諾したことを証する書面と、当該実印に係る市町村長作成の印鑑証明書を添付する必要があります。再任の場合は例外として印鑑証明書を添付する必要はありません(商業登記規則61条4項)

当該規定は、取締役会設置会社の場合は「取締役」を「代表取締役又は代表執行役」と読み替えます(商業登記規則61条5項)。

商業登記規則61条4項・5項により印鑑証明書を添付させる趣旨は虚無人名義(架空の人の名義)の登記の発生を防止するためです。再任の場合に例外として印鑑証明書の添付が不要となるのは、初回の就任登記において印鑑証明書により実在性が担保されているからです。

さて、商業登記規則61条4項・5項の印鑑証明書を添付しなくても良い「再任」とはどのようなケースをいうのでしょうか。

再任とは一般的な意味で言えば同一役職に再度選任され就任することを意味しますが、商業登記規則61条4項・5項にいう印鑑証明書の添付が不要となる再任は限定的に解釈されています。

この点古い登記研究の質疑応答で、「①重任の場合、②任期満了後代表取締役の権利義務を有する者(商法第261条3項、258条1項)が再び代表取締役に選任され就任した場合が含まれると考えられますが、その他に、③辞任後同一人が代表取締役に再び選任され就任した場合も含まれると考えて差し支えないでしょうか」との問いに対し答えとして「辞任後も代表取締役の権利義務を有していた者が引続き代表取締役に就任した場合も「再任」に含まれる、と考えます」(『商業・法人登記質疑応答集増補第2版』登記研究編集室編(テイハン,平成15年)259頁(登記研究364号(昭和53年)の質疑応答))としたものがあります。

なお、権利義務を有する者とは、任期満了または辞任により退任したことにより代表取締役若しくは役員(取締役等)を欠いたとき又は定款で定める員数(役員については法律に定める員数を含む)が欠いてしまう場合に、その後任者が就任するまでなお法律上代表取締役等としての権利義務を有する者をいいます(会社法346条1項,351条1項)。

辞任又は任期満了により権利義務者となった者の退任登記は、後任者(同一の者でも良い)が就任することにより権利義務者でなくなった後に、後任者の就任登記と同時に申請しなければならず、権利義務者の退任登記だけを申請しても受理されません。

上記質疑応答では、辞任をしても権利義務者とならなかった代表取締役の退任登記をした後に、同一人が再任され就任した場合も「再任」に含まれるように読めなくもないですが、登記研究806号から、①重任(重任の意義については後述)する場合、②任期満了や辞任などにより退任した取締役会非設置会社の取締役又は取締役会設置会社の代表取締役若しくは代表執行役が再度同一役職に選任され退任登記と就任登記を同一の申請書で申請する場合が、印鑑証明書の添付が不要となる「再任」に該当するものと考えます(神﨑満治郎「商業・法人登記実務上の諸問題(第20回)登記研究806号(テイハン,平成27年)65頁以下参照)。

私の実務経験上でも重任登記の場合又は、任期満了や辞任などにより退任した取締役会非設置会社の取締役又は取締役会設置会社の代表取締役が再度同一役職に選任され退任登記と就任登記を同一の申請書で申請する場合は、印鑑証明書を添付せずに受理されています。

なお、上記「再任」の解釈は実務経験と文献を基に慎重に記載にしていますが、登記官によっては異なる解釈を取ることもないとはいえませんので、参考として読んでいただければと思います。

取締役等の重任とは

重任とは、任期満了による退任(代表取締役については前提資格である取締役の任期満了による退任を含む)後時間的な間隔を置かずに再任することをいいます(『商業登記ハンドブック第4版』松井信憲(商事法務,令和3年)398頁参照)。

任期満了による退任に限定されていますので、株主総会終結時をもって辞任する取締役が、当該総会でその後任の取締役として再選され即時就任承諾をした場合は退任と就任との時間的な間隔はありませんが、「辞任」「就任」と登記します(『登記研究333号』(テイハン,昭和55年)73頁)。

では、時間的な間隔を置かずに再任することとありますが、退任から就任までの時間的間隔がどの程度であれば「重任」で登記が可能と解されているのでしょうか。

取締役甲、乙、丙、代表取締役甲である取締役会を設置する株式会社において、定時株主総会の終結をもって取締役全員が退任する場合に全員が再度取締役に再選され就任承諾し、その後同日に開催された取締役会において甲が代表取締役に再選され即時就任承諾した場合には、取締役甲、乙、丙は問題なく「重任」ですが、代表取締役については「退任・就任」でも「重任」でもいずれでも差し支えないとする見解があります(『商業・法人登記質疑応答集増補第2版』登記研究編集室編(テイハン,平成15年)185頁,登記研究453号(昭和60年)の質疑応答)。

上記の場合、代表取締役については退任と選任との間に時間的な間隔がありますが、退任日と同日に再任していることから「重任」として登記します。上記見解では「退任・就任」でも差し支えないとしていますが、実務において本ケースでは「重任」で登記をすることがほとんどと思われ、私も「重任」で登記を申請しています。

取締役が甲、乙、丙の3名、代表取締役が甲である取締役会設置会社において、定款規定により3月31日に取締役全員の任期が満了する場合に予選により取締役甲、乙、丁が選任され就任承諾し、同年4月1日に取締役会により甲を代表取締役として選定して就任承諾した場合は、甲の代表取締役の就任登記の登記原因は「重任」で差し支えないと解されています(『登記研究832号』(テイハン,平成29年)175頁以下)。

甲は取締役としては退任と就任に時間的な間隔は空いていませんが、代表取締役としては3月31日24時に退任し同年4月1日の中途において就任していますので、わずかですが退任と就任との間に時間的な間隔があります。

甲の取締役としての重任日(4月1日)と同一日に開催した取締役会において甲を代表取締役に選定し就任していることから認められたようですが、登記研究832号の質疑応答が出る前は、代表取締役甲について3月31日「退任」4月1日「就任」を登記原因として登記をしていました。

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